なんでも形から入ろうとする人や、理論を徹底的に覚え込もうとする人ほど
上達は遅く、モチベーションも低下しやすい傾向があります。
絵を描くことは、よく「自転車の乗り方」にたとえられます。
頭の中でどんなに重心やバランスや足の運動を思い描いても、
実際に自転車に乗ってみるまでは何一つ役に立たないからです。
もし、スケッチやクロッキーのやり方に何か決まりがあるとか、
法則、原理、どういう結果を得られればよいのか、といったことを
期待したり目的としたりしているなら、ちょっと考えを改めたほうが
いいかもしれません。
絵をどう描くのかは
何を描くのかということより
重要ではないからです。
単に「テクニック」を身につけたいだけなら、
既存の絵画を複製する作業をすることと同じです。
実のところ、絵画技法の参考書やフリースクール等で教えているのは
「テクニック」であり、一つの産業に過ぎないものです。
漫画の単行本や画集などを売ることと本質的には同じで、
ただ体裁が違い、個人の技量を売り込むことに変わりはありません。
学ぶことに加えて自分自身の持つ「+α」がなければ、
真面目に授業に出ていてもガッカリさせられることが多いでしょう。
自分だけのイラストや、まだ誰にも描かれていない写真や人物を
描くことに本当の意味があるということを覚えておきましょう。
巨匠や売れっ子の絵師に似せようとしなくてもいいのです。
模写は模写として、スケッチとは別に行ってください。
同じ筆順で書いた文字の形が人によって異なるように、
完全に一致する絵は誰にも描けないものなのです。
適当に描かれているように見えても、こまごまと修正を加えるより
生き生きとしているし、満足度も高いことが多いのです。
そしてこのようなスケッチは大抵、二度と同じには描けません。
丹念に仕上げられた作品ほど複製しやすく、
適当に描かれたスケッチほど複製しにくい。
普通に考えると「逆ではないか」と思われるでしょう。
しかしスケッチのタッチを模倣することは至難の業です。
ほとんど唯一といってもいいくらいの「個性」が表れているからです。
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